税理士と公認会計士。
どちらも会計専門職ですが、試験難易度から仕事内容まで少なからぬ違いがあるものです。
どっちを目指そうか迷っている人もいるでしょう。
そこで、この記事では税理士と会計士の様々な違いについて解説していこうと思います。
職業上の適性や、いわゆる会計士税理士(※)についても触れていますので参考にしてみてください。
※公認会計士は無試験で税理士登録をすることができ、実際に多くの開業会計士が税理士として活動しています。
・実務経験、通算20年以上
・独立までに大・中・小の3つの事務所に勤務(他に特許事務所経験あり)
・資格:税理士・公認会計士・弁理士
・独立後は会計・特許事務所を運営
税理士vs公認会計士①:資格を取得するまでの難易度

- 公認会計士の方が税理士より資格取得までの難易度は総じて高い
- 税理士試験に5科目合格するのは楽ではない!
資格取得の流れ
🍀税理士取得の流れ
税理士試験合格➡実務経験2年(試験合格前でも可)➡税理士会に登録
🍀公認会計士取得の流れ
公認会計士試験合格➡実務経験2年(試験合格前でも可)&実務補修(3年)➡修了考査➡公認会計士協会に登録
税理士も公認会計士も共に2年の実務経験が必要ですが、会計士は国家試験合格後、さらに修了考査に合格しなくてはなりません。
試験内容
税理士は基本的に会計2科目、税法3科目に合格する必要があります(うち1科目は法人税法もしくは所得税法の受験が必須です)。
ただし、この法人税法等を含め、2科目分を大学院で免除することができます(税理士事務所2代目を中心によく利用されるルートです)。
対して公認会計士試験は、年2回の短答試験と年1回の論文試験の2本立て。
こちらも会計大学院で短答の一部が免除されますが、一般的には全科目受験していきます(参考:令和4年公認会計士試験合格者調)。
また両試験とも、科目別合格制度を採用していますが、会計士試験には有効期限がありますので、実質的には一度で完全合格を目指します(他方、税理士試験は一度合格すると永久に有効です)。
あと試験内容の特色としては
税理士試験はやや実務寄り、対して会計士試験はアカデミック色が濃い
税理士試験は、とにかく条文や計算式の暗記が大変です(知識としては役に立ちます)。
対して会計士試験では、ややアカデミックで理論重視のところがあると言えるでしょう。
また、論文試験については法令集が配付されます。
難易度
上記のような両試験ですが、例えて言うなら、
税理士試験が長距離マラソンなのに対して、会計士試験自体は短距離走と言えるでしょう。
確かに会計士受験生の中には何年も頑張る人がいますが、通常は受験に専念しながら、2~3年で突破していきます(合格者の大半が20代であり、学生合格も多い)。
ただし、(会計士の方は)勉強量が膨大で、かつ全科目合格を目指すのが通常です。
会計士試験に合格したら、次に3年間の実務補修を経て、最後の関門である修了考査に臨みます。
対して税理士は、一般的に仕事をしながらの受験になります。
しかも試験は科目別合格制を採用、一度にすべて受かる必要はありません。
1年に1科目づつ合格すれば良いのです。
結果として、時間はかかりますが、諦めなければ比較的報われやすい試験と言われています。
また、上で述べた大学院ルートをとれば、資格取得のハードルは下がるでしょう。
注意:1科目づつ合格するというのは、結構大変なものです。5科目全てで約10~20%の狭き門を突破しなくてはなりません。
筆者個人的には、実は税理士試験の方が負担が重く、リスクが高いようにも感じます(例えば3科目で合格が止まったままの人も少なくない)。


税理士vs公認会計士②:仕事編

- 税理士は中小企業、会計士は大企業がクライアント
- 独立すれば会計士も実質的に税理士と同じ
- 業務の性格としては、税理士は泥臭く、会計士はビジネスライク
- 他の業務の可能性は会計士の方が広い
主な業務
公認会計士の業務の基本は監査業務です。
クライアントの作成した財務書類や決算をチェックするのが仕事です。
これに対して税理士は税務業務です。
具体的には税務申告書を作成したり、税務相談を受けたりします。
ここでの両者の最大の違いは独立性です。
確かに税理士も(顧客側にべったりではなく)公正中立な立場で適正な納税ができるよう指導しますが、その立場は代理人です。
対して、公認会計士は独立の監査人です。
税務申告は別に税理士でなくとも、自分でやってしまって構わないのですが、監査はそうはいきません。
自己監査(自分で自分を監査することは)は認められないのです。
もっとも、会計士と言えども報酬をクライアントから頂戴していますので、「独立」と言われても???は拭えませんよね。
監査人としては、この独立性は永遠のテーマかも。
顧客(クライアント)
税理士の顧客は、中小零細企業や個人が中心です。
確かに大手税理士法人では、上場企業の顧客がいたり、国際税務を担ったりしますが、一般の会計事務所がこれらに関与することはあまりないでしょう。
対して会計士のクライアントは、基本的に大企業(上場企業など)です。
監査の目的は、出資者である投資家等を保護することであり、その顧客は市場から資金調達する企業となります。
業務の性格
まず会計士です。
上記のようなクライアントであることから、業務は必然的にビジネスライクになってきます。
担当者も頻繁に変わりますし、人間的な要素はそれほど顔を出してこないでしょう。
対して税理士。
こちらは、逆にドロドロとした人間臭い部分が思いっきり表れやすいと言えます。
特に中小零細企業は事実上、社長個人の所有物です。
しかも人間というのは、自分の懐のことになると結構、感情的になったりします。
特に相続をはじめとする資産税などは、当事者たちの欲望が渦巻いていたりするものです。
なので、税理士は(会計士とは別の意味で)いろいろと苦労させられます(税務署と顧客の板挟みになることも少なくありません)。


他の業務の可能性
こちらも会計士から。
会計士の活躍フィールドは、監査業務の他にも次のような業務があります。
- 税務
- 株式公開支援(IPO)
- FASやM&Aをはじめとするコンサル業務
- ベンチャー等のCFO
- 国際業務(外国語に精通することを含む)
- 独立開業
また、各業種(不動産・建設、金融、製造、商社、IT・ネット関連など)ごとに、得意分野を深めていくこともできます。
さらには、ダブルライセンスを取得することで差別化を図るなど、とにかくその可能性は無限と言えます(ちなみに会計士資格は他のどんな資格とも相性が抜群です)。
対して税理士。
税理士も会計士と同様、会計や財務がベースとなっていますので、上記の分野に関わっていくことは不可能ではありません。
また、おカネや税金はあらゆる人や事業体に必ず付いて回るので、仕事が無くなることもないでしょう。
ただし、試験内容や基本的実務が税務であることから(さらには独立志向が強いこともあって)、活躍フィールドは自然と決まってくるものです。
あくまでも会計士と比較した結果に過ぎませんが、税理士の方が他の業務の可能性は狭まってくる感じです。


税理士vs公認会計士③:収入編

公認会計士の方が税理士より高め
理由として挙げられるのは次のようなものです。
- 顧客の違い:大企業(上場企業等)と中小零細企業の違い
- 記帳代行・決算申告業務と監査業務の違い
確かに中層零細企業に対して、記帳代行等で高額の報酬を求めるのは難しいですね(資金力にしても非常に限られてきますし)。
他方で、監査も(一見すると)大きな付加価値なんて顧客にとってあるの?と思われるかもしれません。
ですが、資本市場の信頼を得るという点からすると、その報酬の経済的な意味は違ってくるものです。
要するに顧客クライアントだけの問題ではないということです。


税理士vs公認会計士④:独立のしやすさ
- 実務的には税理士の方が独立しやすい
- 経済的には会計士にも有利な要素あり(監査のアルバイトができる)
会計士が監査法人から直接独立するのは、実務面からしても結構厳しいです。
特に今日では、会計は税務とは切り離されていますし、監査では申告書作成も行いません(税効果会計で少し触れるぐらいです)。
大昔は上場企業の会計も、事実上、税務に支配されていたところがあり、監査の現場でも結構、税務の話が出たものでした。
おそらく、会計士がいきなり独立するとなると、かなり面食らうのではないでしょうか。
ただし、経済面はまた別の話。
今日では顧客の確保は結構大変で、独立するとなると、しばらくの間は大変なものです。
こんな時、威力を発揮するのが、監査のバイトです。
常勤の半分で、十分生活ができてしまいます。
税理士事務所のパートも無くはないですが、顧客対応を考えるとなかなか難しいところがあります。
経済面を考慮すると、独立のハードルは会計士の方が低い、ということです。


税理士vs公認会計士⑤:適性(向き・不向き)編

- 独立志向なら税理士、組織でリーダーを目指すなら会計士
- 顧客に寄り添いたければ税理士、より中立公正な立場で社会貢献したければ会計士
- 泥臭い人間関係が嫌でなければ税理士、ビジネスライクにいきたければ会計士
今まで述べたことから、だいたい見当はつくと思います。
税理士の多くが開業組です(注:会計士も独立すれば、基本的に税理士として仕事をします)。
対して会計士は組織のリーダー向きと言えるでしょう。
また、税理士は、顧客経営者と(時には泥臭くも)膝を交えるのが仕事の核心部分です(別の言い方をすれば、目線は書類ではなく、顧客に向いているべきです)。
対して会計士は、広い社会、そして世界が相手であり、不特定の多くの人と関わっていきます。
どちらが良いか悪いかではなく、どちらがご自身に向いているか、ということです。


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第2ラウンド・税務編!税理士資格オンリーvs会計士税理士

- 一般的に税務の知識自体は税理士の勝ち!
- 実務については、あまり変わらない
税務知識編
「(税務能力を疑われるので)公認会計士の資格を名刺に入れない方がいいよ」
税理士会に入会した頃、複数のベテラン税理士さん達から言われたことです。
確かに税理士試験と会計士試験の違いや、税法科目の合格に必要なレベルを考えると、なかなか返す言葉が見つかりません。

他人のこと言えるか!大学院・免除組だってウジャウジャいるぞ
でも、税務業務と監査業務はかなり違うし、今日では監査法人で税務そのものを扱うことはありません。
また、上場企業の監査では、基本的にクライアントの方で全てやってしまい、会計士の方はチェックするだけ。
受け身になりがちです。
特に税務は知識勝負的なところがありますし、その辺りが欠落していると取り返しのつかない事態になりかねません。
その点、税理士はまさに税務のエキスパートと言えます。
税務実務編
では、(監査法人からいきなり独立した人も含めて)会計士税理士は税務実務ができないのか、というと、
結論から言えば、そんなことはありません。
会計士税理士の先生方も、しっかり税務の第一線で活躍しています(ただし資産税分野を受任しない会計士税理士はいる)。



試験勉強と仕事は別物!実務はそんなに甘くないよ
そもそも全ての規定を暗記したりできませんし、全ての事案を経験することだって不可能です。
法令改正や新しい制度が導入されることだってありますし(インボイス制度など)。
むしろ、実際には、
「そういえば、なにか関連する規定があったような…」
こんな感じで閃きがあれば、取り敢えずはやっていけるものです。
ただし、それさえ浮かばないと、ちょっとヤバいかも(消費税の手続ひとつとっても、落とし穴があったりします)。
上でも述べましたが、知識勝負的なところはあるのです。
現に大手のパートナーですら、その辺の基礎知識が怪しい人がいたりします(彼らは税務の勉強どころではない?)。
なので税務をやる以上、普段からプロとして自己研鑽を怠らないこと。
職業会計人としての最低ラインですね。


まとめ


税理士と公認会計士の違いを中心に解説してきました。
簡単にまとめると次の通りです。
- 税理士は中小企業を対象に税務を行う一方、会計士は主に大企業の監査を行う
- 税理士は比較的顧客寄りなのに対して、会計士は資本市場の番人的役割を果たしている
- 税理士は人間の泥臭い部分が付いて回るのに対して、会計士はビジネスライクである
- 会計士も独立開業すれば、税理士と基本的に同じである
税理士と会計士について一言添えるとすれば、それぞれ役割分担であるということ。
どっちが上とか下とか、あるいは試験が難しいとか易しいとかは、あまり本質的なことではありません。
むしろ、これらを目指そうとする人にとっては、自分の適性や関心分野を見極めることの方が大切だと思います。
参考にしていただけたらと思います。