公認会計士と弁理士。
それぞれ、世間一般では社会的地位が高く、高収入とされる難関国家資格です。
他方、両資格は水と油のようなところがあり、両者の接点はなかなか見出しづらそうです。
互いに別世界の人達と感じる人もいるでしょう。
そこでこの記事では、両資格を徹底比較するとともに、そのダブルホルダーの実情にも迫ってみたいと思います。
多少の無理はあるものの、結構興味深いものが見えてきます。
これらの資格に関心がある人は参考にしてみてください。
なお当記事は私の個人的な体験や見解に基づいております。
略歴:特許事務所→公認会計士→監査法人・会計士事務所→弁理士→独立(会計事務所・特許事務所経営)
特許事務所を経営する父親の長男に生まれる。
そうした背景もあって学生の頃から知財に関与していたが、ある日、心機一転、会計業界に飛び込む。
その後、父親の健康事情から家業を承継するとともに会計事務所を開業。
長期にわたり複数の士業に携わりながら、様々な事務所や実務を経験する。
公認会計士vs弁理士①:全体的な比較

5段階評価です。数字が大きいほど強く(大きく)なります(注:私の独断と偏見です)。
公認会計士 | 弁理士 | |
---|---|---|
知名度 | 5 | 2 |
試験難易度 | 4~5 | 5 |
社会的信頼度・地位 | 5 | 4 |
収入(勤務) | 4 | 3 |
収入(新規独立:今) | 4~5 | 1~3 |
<参考>収入(独立:昔) | 5 | 特5 |
独立のしやすさ(今) | 4~5 | 1~2 |
仕事のつぶしがきく度合 | 5 | 1 |
職人気質(プライド) | 3 | 特5 |
業界の高齢度 | 1~2 | 4~5 |
時代に影響される度合い | 5 | 5 |
異性ウケ(?) | 4~5 | ?? |
注:あくまでザックリした一応の目安です。
最終的には人によりけりであり、また、経済情勢や時代背景によって変わってきます。
以下、一部補足しておきます。
試験難易度について
試験制度は、会計士も弁理士も共に昔の制度に比べ簡素化され、取り組みやすくなってきています(ただし、会計士試験の試験範囲自体は、会計制度等の複雑化に伴い拡大しています)。
また、難易度や合格率についていうと、時代背景を反映して変動することがあり、受験生を悩ませてきました。
0708頃の会計士試験と同様、弁理士試験もザルのような時期(例えば09)があったのですが、試験制度がやや複雑化したこともあり、現在はやや難化しています。
なお、会計士試験は勉強に専念される人が多いのに対して、弁理士では多くの人が通常勤務をしながらの受験勉強となります(会計士の受験生は20代が中心なのに対し、弁理士のそれはアラフォー!)。
あと、弁理士の受験生は、旧帝大出身者が非常に多いのに対し (しかも理系で大学院まで出ている人が多い) 、会計士は比較的私大出身者が多いといえます。
受験者層が必ずしも同じではないということです。

>>弁理士試験に最短で合格する勉強法|短答・論文・口述別に解説!(外部リンク)

職業人としての性格について
会計士がゼネラリストで経営者に近いイメージがあるのに対し、弁理士はエキスパートで、いわゆる職人という印象があります(もちろん全員ではありません)。
両方のホルダーの立場から(相対的に)感じたことなのですが、先ず会計士側は弁理士のことを、大方好意的かつ尊敬の眼差しで見ていました。
他方、弁理士側はといいますと、それとは少し違っていたように思います。
正直、会計士をネガティブに(敵対的に?)意識していると思わせる場面が少なくありませんでした(特に比較的若い弁理士にはそれが露骨に表れていたような気がします)。
特に弁理士は技術に精通し、語学が堪能で、法律家。
何でもできる。
T大(院)卒をはじめとする理系出身の彼らが、文系出身者を見下したくなる気持ちもわからなくはありません。
他方で、特許・知財業務の特殊性に鑑みるならば、匠の技に対する矜持のようなものがでてきて当然だし、弁理士の性格がその裏返しといえなくもないのです。
公認会計士vs弁理士②:相対的な特徴

ここでは、両資格の特徴を双方比べながら個別具体的にみていきます(多少無理っぽいところがありますが、ご了承ください)。
なお、会計士は監査法人勤務を前提に、弁理士は特許事務所勤務を前提にします。
先ずは公認会計士の特徴をまとめます(弁理士との対比を意識してます)。
- 監査業務は企業全体にかかわり、そのスケールから経済的影響も大きい
- 独立の監査人は代理人と異なり、職務は安定している
- 仕事はチーム単位で行われ、事案によっては事務所全体として関与することもある
- 現場スタッフの仕事のメインは監査調書作成・整備(一種の証拠集め)
- 報酬は勤務弁理士より恵まれている
- 目まぐるしく変わる法令や基準にキャッチアップしていくのが大変
- 金融庁等の検査・レビューへの対応も大変
- 会計士試験のボリュームは膨大だが、実務につながるものも多い
- 実務の勉強のためには、新人は中小より大手の事務所に行った方がよい
次に弁理士の特徴をまとめます(上で示した会計士の特徴と対比しています)
- 特許業務は個々の出願案件が中心であり、監査業務ほどのスケール感はない(訴訟を除く)
- 監査や会計とは異なり、特許を取るかは会社の任意である(国内の仕事は減少傾向にあり)
- 仕事(出願代理業務)は個人単位で行われる
- 仕事のメインは明細書(特許庁への出願書類)の作成
- 勤務弁理士の収入は勤務会計士より厳しい
- 法令等の変更は毎年あるが、会計士ほど実務は振り回されない
- 特許庁の審査を受けることが出発点なので、役所対応の際の緊迫感は会計士ほどではない
- 弁理士試験の勉強はあまり実務に結び付かない
- 実務の腕を磨くには、新人は大手よりも中小事務所が良いかも(ただしピンキリ)
以下、コメントしておきます。
仕事について

上のまとめでも触れましたが、会計士の監査業務はスケールが大きく、チーム単位、組織単位で仕事をします。
それに対し弁理士は、個々の特許出願案件を取り扱いますので、仕事が基本的に個人単位で完結します。
また、どちらの仕事も現場レベルでは書類作成・整備がメインですが、内容的には会計士は証拠収集、弁理士では発明や新技術の説明になります。
個人的には弁理士の方がクリエイティブ(創作性がある)かな、と思います(ただし大手特許事務所を中心に近年はルーティーン化しやすい傾向にあり)。
プロフェッショナルたちの責任について(コラム):
弁理士の場合、手続の期限徒過などをしない限り、最悪でも通常は顧客に仕事を切られてオシマイです。
対して会計士の場合は、精一杯やったつもりでも、最悪、巨額の損害賠償を(株主などから)請求されたうえ、監獄行き、なんてことも(ただし対象はパートナー)。
一方は失ってもゼロになるだけですが、他方はマイナス∞です!
収入について
会計士の方が全体的に恵まれているような気がします。
一般的に会計士の平均給与は900万、弁理士は700万などと言われます(会計士は30代で1000万に十分到達できます)。
また、会計士試験合格者(新人)でも500万以上いくのに対し、特許未経験者は400万に届かないのではないかと思います(弁理士のスタート時は、いわゆる丁稚奉公的なところあり)。
そもそも弁理士は仕事(クライアント)を取ってこないと昇給に限界があるのです。
一方、会計士は決算期や金融庁への対応時などを中心に、弁理士よりハードワークになりがちです。
また業務のリスクも大きく、ストレスが多いといえます(上記の「プロフェッショナルたちの責任について」の通りです)。
その分が収入面に反映されているといえるでしょう。
ただしその会計士も上にいくにつれ昇給は鈍化してきます。
弁理士と同様、パートナーまでいくのは至難の業。多くの人が入所後10年内に転職や独立していくのが実情です。
>>弁理士の年収の現実とその増やし方を解説【やり方次第で稼げます!】(外部リンク)

法令等の変更と役所等への対応について
ここも大きな違いだと思います。
結論は、先のまとめの通りですが、会計士は気の毒なくらい振り回される、という感じが強いです。
開けても暮れても会計基準等の変更と対応、変更と対応…といった具合です(私もなんだかなぁ~とつい思ってしまいます)。
しかも金融庁等への対応がまた大変。
近年はかなり落ち着いてきた印象がありますが、
それでも日常業務のレビューをしっかりやっておかないと、その時がきたら大慌てなんてことになります(最悪、事務所が廃業に追い込まれてしまいます)。
その点、こういっては失礼ですが、会計士をした人から見れば特許事務所は相対的に長閑に感じなくもない。
役所(特許庁)の審査(特許できるかのチェック)にしても、それが仕事の出発点ですから。
その特許庁とのやり取り(中間処分と言います)、これがまたしっかりおカネに結びついてくれます。
役所対応についての補足:
国家資格である士業は、仕事に関して役所の規制やチェックを受けるがあります。
会計士なら金融庁によって監査の品質が検査されますし、弁理士でしたら、特許庁によって特許の付与が審査されます。
また、そのチェック等は書類審査(会計士なら監査調書、弁理士なら明細書)によって行われるのが通常です。
試験勉強と実務の関係について
試験については最初の方で触れました。
ここでは実務とのつながりについてコメントします(注:会計士は現場レベルを想定)。
どちらも大変な試験ですが、どちらかというと会計士試験の勉強の方が実務に役立つといえます(各種会計基準や企業法、税法など)。
他方弁理士の日常実務(特許出願業務)は、試験勉強とは全く別の能力や技術が要求されます。
会計士の監査調書の作成実務と弁理士の明細書作成実務とでは(共に仕事の成果物ですが)当然ながら別次元なのです。
前者は大手監査法人にて、マニュアルと上司のレビューを通じてそれなりのものができるようになります。
他方、後者は必ずしもそうはいかない。
ピアニストや陶芸家が巨匠に師事して、その匠の技を身につける、といったところでしょうか(ただし近年は大手特許事務所を中心に、ある程度の品質を保ちつつ量産的に仕事を進める傾向になってきています)。
公認会計士×弁理士①:Wライセンスの可能性

ここでは、会計士もしくは弁理士のどちらかを既に取った人(あるいは将来的に両方の取得を考えている人)に向けた話をします。
弁理士を先に取った人へ:弁理士から公認会計士へのルート
「もう自分はもう基本的に明細書作成・出願代理はしない」という人を前提とします。
結論的には十分有望です。
収入的にも先々プラスが十分見込まれるでしょう(ただし、個々人の会計士業務への適性は全く別の話となります)。
会計士は一般的に守備範囲が広くゼネラリスト性が強い。
言い換えると、先々個々の会計士には何か強みというか、差別化要因のようなものが求められてきます。
そんな中、弁理士有資格者は大いにユニークな存在であり、事務所内でも間違いなく一目置かれると思います。
ズバリ大手監査法人を中心に歓迎されるでしょう。
ただし、あくまでもメインは会計や監査であり、通常業務で知財を扱うことはありません。
もし、知財・特許をベースに仕事をするのであれば、むしろ法科大学院(米国ロースクールを含む)に行って法曹を目指す方がよいのではないかと思います。
やはり知財・特許と会計は接点を見出しづらいのは確かですし、渉外系やコンサルも含め弁護士の方が活躍のチャンスが広がるからです。

公認会計士を先に取った人へ:公認会計士から弁理士へのルート

あまりいないと思いますが、一応言及しておきます。
一般論としてあまりお勧めできない、というのが正直なところです。
特に文系出身で開発や知財実務経験が無い場合は尚更です。
ただし、自分はどうしても特許のプロになりたい!とか、出願代理人で飯を食っていく!という強い覚悟がある人には一つだけアドバイスがあります。
それは
資格より実務を優先する
ということです。
試験は40代でもなんとかなります。ですが、実務の習得は年齢的にできる限り早い方がよい。
特に文系で実務経験が無い場合、特許事務所に就職するのも極めて厳しいと思います。
しかも、それなりに実務をこなせるようになるには2~3年は寝食を忘れて取り組む必要があります(正直、資格試験の勉強どころではありません)。
またこの間に自己の適性をも見極めることも肝要です(弁理士業は会計士よりも適性が厳しく問われます)。
なお、会計士×弁理士で何か面白いことができないか、と思われるかもしれませんが、やはり厳しいというのが現実です。
仮に資格が取れたとしても、キャリアとしては中途半端な状態のまま結局、会計に戻る、という公算が大きいです。
>>弁理士に向いている人の特徴5つ|会社勤めが嫌な人は適性アリかも(外部リンク)
>>文系でも弁理士を目指せるか?仕事や就職、特許の可能性も徹底解説!(外部リンク)


公認会計士を目指される方にオススメ!
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公認会計士×弁理士②:両方取得して実際どうだったか

注:私は公認会計士→弁理士のルートを取りましたが、実家が長年、都内で特許事務所をやっていたという事情がありました。
会計士からの転身というより、一時期、別の業界でビジネスの勉強をしてきた、といったところでしょうか。
ここではその点にご留意ください。
公認会計士としての視点
公認会計士の業務は、スケールが大きく活躍のフィールドの幅も大変広いといえます。
業務の可能性に至っては無限といってもいいくらいです。
ですが、見方によっては広すぎるともいえます。
会計士をしていくうちに気づくのですが、何か(自分だけの)更なる得意分野、専門分野が必要であると感じるようになるのです。
結果として、(監査法人内のキャリアパスにもよりますが)金融を専門とする会計士、不動産を専門とする会計士、ITに強い会計士、あるいは英語に堪能な会計士、外国の税制に詳しい会計士等々がでてきます。
弁理士としての視点
他方、弁理士は特許・知財の専門家で、もともと極めて専門的です。
理系特有の技術分野も関係して一般の人にはまずわかりません。にわか勉強では全く歯が立たないです。
ただ別の見方をすれば、弁理士業は(知財から離れれば)つぶしがきかないともいえます。
ですので実際に弁理士業を専門にしている時は、通常、特許出願業務が中心になります。
この特許業務に従事している時に、他の業界の分野、例えば会計、不動産、経営計画立案、といったものが自分の業務として挙がってくることはまずありません(職人が自分の技に没頭している場面をイメージすると良いでしょう)。
両方を実際に取得してみて(体験談)

私が会計士と弁理士を兼業していた時も、弁理士たちはもちろん特許関係のクライアントも、会計士関連の業務に関してはほとんど反応を示しませんでした。
確かに特許権の財産的価値などといった興味深いテーマも無くはなかったのですが、特許・知財を仕事のフィールドとした場合で、会計士資格が直接役立ったことはあまりありません。
他方、会計士のフィールでは、特許や知財に関連する問い合わせは結構すごいものがありました。
会計士はあらゆる分野に会計を通じて携わるのですが、特許や知財に精通している人がほとんどいなかったのです。
いわゆる完全なブルーオーシャンでした。
最先端のIT企業から町の中小企業まで、弁理士というより会計士としての私にいろいろな相談が来たのを覚えています。
それこそ、ちょっとした特許や商標に関する質問から、外国弁理士立替送金をめぐる国税当局絡みの税金問題まで、相当数の事案に対応させていただきました(しかも弁理士試験の知識で対応できたものも少なくありません)。
当然ながら、そこから特許の仕事の依頼に結びついたケースもあります(ダブルライセンスを営業ツールとして生かせたのです)。
こうしたことは、会計士のフィールドで弁理士資格を役立てることができた例といえましょう。
両資格の特徴や性格が対照的なこともあり、実際の業務との関係で資格の位置づけや役割が定まっていったのです。

資格取得の勉強には、スクール・講座の利用が不可欠です!
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おわりに

公認会計士資格と弁理士資格を比較するとともに、そのダブルホルダーの実情について解説してきました。
もっとも、私の個人的な体験や感想に基づくものであるため、当然のことながら、この記事内容だけで全てを総括できるものではありません。
ですが、この数少ない資格の組み合わせについて通り一遍でない本格的な資格レビューができたと思います。
参考にしていただけたら幸いです。
最後に、遅ればせながら、公認会計士試験及び弁理士試験の受験生の皆様につきましては合格をお祈りしております。

